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リレーインタビュー 第15回 岩渕健輔さん(中編)

岩渕さんご自身のビジョンを教えていただけますか?

監督として、あるいはヘッドコーチとしてこんなチームでやりたいと言うような個人的なビジョンはあまりないですし、現在のラグビーの仕事に関しても、この先どれぐらい関わっていくか、正直なところ、あまり考えてはいません。私は強化の仕事を10年程、それも、トップのナショナルチームをかなり長い期間やらせてもらっていますが、このような仕事は、同じような発想、同じような考えではなく、違う視点でやったほうがいいのではないかと思います。そもそも、強化を長い期間やるのはいいことだとは思っていませんし。

一方で、現在の役職からすれば、2020年東京でメダルをとるのが目標です。でもそれが最高なのではなく、それが達成されなければその先の目標は叶えられないと思っています。たとえば7人制ラグビー(セブンズ)は、男子の世界ではどうしても15人制があった上でのセブンズであり、ワールドカップが先でその次がオリンピック、と後手後手に回っています。しかし今の世界の流れから考えると、日本にも、年間通してセブンズをプレイする選手たちが生まれる必要があります。

現在は15人制のチームから採用された選手たちも、そのチームの応援があってトレーニングを進めることができていますが、それは東京オリンピックがあるからで、次期開催のパリ、その次のロサンゼルスとなったら、同じようなサポートが得られるとは思っていません。そうなると、今、東京で結果を出すということと、東京までの間にその先の強化のあるべき姿を整えておくということが現在の役職として非常に大事なことですし、今私がやらないと、次に他の人がやった時、また同じ繰り返しで時間の浪費になってしまうと思います。

また現在は、協会の理事もやらせてもらっていますので、大きなイベントを通して、ラグビーの魅力をもっと発信していかなければなりません。どうすればラグビーに親しみのない方にラグビーの魅力を感じていただけるのか、常に考えています。ワールドカップとオリンピックは大イベントです。今はレガシー、レガシーと大声で叫ばれていますが、ラグビーに限らず、大きなスポーツイベントが社会にどのようなレガシーを残していくのかが大切なのだと思います。

そもそも、ワールドカップとオリンピックが2年続けて日本で行われることは、この先100年経ってもないほどの好機です。ですから今は、50年後のラグビーの未来を決めるような大きな戦いの時だと思っています。ヘッドコーチをやりながら、2020年東京でメダルを獲るだけではなく、スポーツそのものが社会で意味を持つようになること、例えば、サッカーや野球だけではなく、ラグビーやアメリカンフットボールや様々なスポーツが公園で行われている、そんな社会を作ることが、自分の仕事として一番大きなことだと思っています。

チーム作りにどのようなフィロソフィーをもっていますか。

チーム作りに関して言うと、ナショナルチームはある意味、簡単だと思います。モチベーションに大きな違いはないですし、誰もが代表になりたいし勝ちたいと思っています。例えば、部員が100人、150人という大学のラグビー部では1番目と150番目ではモチベーションが違いますよね。そういう意味では選手も大人ですし、ナショナルチームはやりやすいです。

ですが、子供たちを指導するのは非常に難しい。私がいつも参考にしているのは幼稚園の先生や小学生のラグビースクールのコーチなのです。子供は残酷なので面白くなければ練習に行きません。子供たちを本当にラグビーに向かわせているか、ラグビーを面白いと思わせているか、そのモチベーションの上げ方やチーム作りはとても難しく、そうした意味で、そこで活躍しているコーチの皆さんのスキルは高いと思っています。たまに見学に行くのですが、本当にうまいんですよ。泣く子もいれば、コーチの言うことを聞かない子もいる。そういう子たちをどうやって一つにしていくか。参考になります。

コーチや監督というのは役者にならなければいけないと思っています。コーチの世界でもナショナルチームに向いている者、高校生の指導者に向いている者、スクールの先生に向いている者、いろいろだと思います。しかし究極的には、どんなカテゴリーのどんな選手を相手にしても、モチベーションを上げ、そのスポーツに向かわせ、成長させることができるのが良いコーチだと思います。個人競技であれ、チーム競技であれ、それぞれの役割をうまく持たせながら、チームを作る必要があればそれができる能力が必要です。そういう意味で優れたコーチ、指導者というのは役者にならなければいけないと思うのです。実際の役者さんは普段の自分と演じている時の自分が別人であることが多々あると思います。指導者もそうしたものなのではないでしょうか。

今「演じて」いらっしゃるとしたら、どのようなスタイルを「演じて」いらっしゃるのでしょうか。

それは私だけではなく、チームにいる選手の状況やチーム力の問題、めざす世界や、まわりにどんなスタッフがいるかがすごく重要だと思います。本当は、ラグビーのテクニカルな部分をやりたいのですが、それはコーチ陣に任せていて、私はフィロソフィーやマインドセットといった部分を観ている状況です。コーチという役目の方にはラグビーの戦術的な話が好きな人は多く、「演じる」役者さんという意味でいうと、職人さんタイプが多いかなと感じます。ラグビー界は特に多いですね。確かに、細かい話が延々とできて、しかも選手に対していいアプローチができる人たちもいるんですが、そのような職人さんだけだと続いていかないと思っています。

そういう意味で、GMの時もそうでしたが、システムとしてチームがずっと強くある状況を作ること、それが自分のすべきことです。そのためには職人的な指導者だけですと、その人たちがいなくなるとだめになってしまいます。それに私も10年間、強化をやらせてもらっていますが、「自分がいたから良かったのだ」と自己満足で終わったら、岩渕健輔が残せた物はなかったということになります。自分がいようがいまいが、日本のラグビーが永続的に強くなること。それが究極的なナショナルチームの指導者の仕事だと思います。私がいなくてもしっかり動くチーム、しっかりやれる選手、任せられる指導者がいなくてはいけない。そういう思いでやっています。

システムと指導者、要はそのバランスということですね。

良いかどうかはわかりませんが、GMの時はシステムを作る仕事だと思っていましたし、今は逆に、より現場に近いので、人を見る仕事だとは思っています。一方で、以前システムを作る仕事をしてきた分、日本のセブンズの今後を考えるとここでやっておかないといけない、とも思います。選手に近い位置にいればどうしても見てしまいますし、見ていかなければいけません。現場のことが好きな人が多いですし、それは悪いことだとは思いません。ですが、他のスポーツも同じように、現場からその人がいなくなったら勝てなくなる、というのは良くないわけで、そう考える団体は、こうしたバランスがとれる人材を増やしていかないといけないと思います。(後編につづく)

文:河崎美代子

〇岩渕健輔さん プロフィール

【所属先/役職】

公益財団法人日本ラグビーフットボール協会理事・

Team Japan 2020 男女7人制日本代表総監督

【略歴】

大学在学時に日本代表に選出される。

卒業後、ケンブリッジ大学に入学し、オックスフォード大学との定期戦に出場。

その後、イングランドプレミアシップのサラセンズ、フランスのコロミエ、

7人制日本代表の選手兼コーチなどを経て、2012年より日本代表のGMを務める。

2015年ラグビーW杯、2016年リオ五輪強化責任者。

2017年1月より現職。

ケンブリッジ大学社会政治学部修士課程修了。博士(医学)。

公益財団法人日本ラグビーフットボール協会