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リレーインタビュー第61回 櫛橋茉由さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、プロフェンシングコーチ・国際審判員の櫛橋茉由さんです。

 フェンシングサーブル種目の選手として櫛橋さんは、現役時代単身イタリアへ渡り、日本代表選手としても活躍されました。引退後はコーチとなりハンガリー体育大学でコーチングを学ぶ一方、自らの会社(株式会社KUSHIZZI PROJECT)を立ち上げるなど、歩みを止めない櫛橋さんのお話を2回にわたってご紹介します。

(2025年4月 インタビュアー:松場俊夫)

▷ 現在の活動について教えてください。

現在は日本でコーチングをしながら審判の仕事もしています。また、安価のフェンシング道具を日本で製造・販売したいと思い、会社を立ち上げて用具販売をやってきたのですが、今では安価の商品が増えてきたのでこちらは撤退してコーチングに専念してもいいかなと思っているところです。最近は国際審判員の仕事が増えてきつつあります。

▷ 審判とコーチは全く違う仕事だと思うのですが、どのように切り替えていますか?

切り替えはうまくできていると思います。私にとってコーチングは大好きな仕事で、割とスムーズに選手をサポートできるのですが、審判は自分自身を徹底的に準備しないと戦えません。現役でワールドカップに出ていた時と同じように食事も気にしないと対応できないので、アスリートの自分が戻ってきているような気がします。

▷ 審判を始めた経緯は何でしたか?

お世話になった先生からに「国際審判員試験を受けてみたら?」とお話をいただき、やってみようかと思いました。審判をしていると世界にコネクションができますし、ルールを理解することで、コーチングのスキルもアップするので、今になってとてもいい影響があるとわかりました。

▷ ハンガリー大学で学ぶことになったきっかけについて教えてください。

様々なコネクションから、コロナ禍においてオンラインと対面をコラボさせたフェンシングのコーチング学の修士課程ができるというお話を聞いたので、入学を決めました。ハンガリー体育大学には陸上、水球、格闘技など様々な学科があり、留学生も多いです。

フェンシングには3種目ありますが、私はサーブルという種目の専門です。この学科では全種目を一貫して学ぶことになりました。実業団の時には、実際に全種目のプレーをしていましたが、理論的にわかっていたわけではなかったので、改めて学び直しができたことはよかったです。

▷ 日本スポーツ振興センターの女性エリートコーチ育成プログラムにも参加されていますがどのような学びがありましたか?

このプログラムは定期的なコーチングについてのサポートがあり、非常に学びがありました。様々なメンターの方々との出会いがあり、本当にスキルアップできたと思っています。私のコーチング現場を見ていただいたり、様々なアドバイスをいただきました。

▷ 現役時代にはイタリアでも学ばれましたが、こうしたチャレンジ精神の源泉はどこにあるとお考えですか?

私は、大好きなフェンシングをやりながら、毎日をハッピーに周りの大切な人たちと生きていきたいと思っています。そして、何かやりたいことがあれば、それをどうしたらできるか考えながら日々を過ごしています。そういったモチベーションが原動力かもしれません。

また私にはもともと「ずっと前に進み続けていたい」という気持ちがあり、4年スパンで自分の計画を立て、行動してきました。実業団に入った時は、京都から大阪に通う往復3時間ほどの長い通勤時間に「何かを学ぼう」と思い、行きは英語を勉強し、帰りはとにかく本を読みました。速読をしていたので、1日か2日で3、4冊読みました。その生活を繰り返すうちに様々なインプットがあり、自分にもできると思うことが出てきたので、定期的な目標設定をしてやりたいことを決めていきました。

フェンシングはオリンピック種目なので、色々な環境が4年でどんどん変わっていきます。そのため、4年間というのは何かに挑戦するのにちょうどいいと思っています。

▷ 「フェンシングコーチは天職」とのことですが、そう思われる根拠は何でしょうか。

私は昔から教えるのが得意で、選手の間も後輩の指導を常に行ってきました。そのような背景から、将来は大好きなフェンシングのコーチになりたいと思っていました。選手を引退して、コーチングの仕事を行う中で、選手たちのたくさんの笑顔に出会うことができ、そのような瞬間に立ち会える仕事がとても楽しいです。

▷ 指導する際、目標設定で意識していることは何ですか?

目標を高くしすぎないことと、最終目標を見失わないことです。「最終目標はそこじゃない。今じゃない。ゆっくりやろう」と目標を見失っている選手にはそのように声かけしたりします。

短期目標は試合の度に設定しますが、中期目標や長期目標を特に大切にしています。選手自身に考えてもらうことを意識しています。

▷ 短期の結果目標、プロセス目標についてはどうですか?

基本的な目標は自分たちで考えてもらうようにしています。もちろん一緒に考える時もありますが、なるべく干渉しすぎないようにしています。私は彼らと常に一緒にいるコーチではなく、審判などで共に戦えないことの方が多いので、いざという時に自分で考えられるように自立を促しています。

コーチとして試合に帯同する時も指示をしすぎないようにしています。フェンシングはコーチと選手のマンツーマンなので、技術的な面、戦術的な面では助言することもありますが、あまり多くのことは言いません。私の種目であるサーブルはスピードが速いので、自分の感覚に任せて動く方がパフォーマンスが上がる場合が多いです。(後編に続く)

(文:河崎美代子)

後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/61-2/

◎櫛橋茉由さんプロフィール

京都出身。元フェンシングサーブル種目日本代表。

現在はプロフェンシングコーチ、国際審判員として活動中。

13歳からフェンシングを始め、ジュニア時代から日本代表として、海外を転戦。

大学卒業後は、大阪の実業団で仕事と両立しながら競技を続け、2016年イタリアへ。その後、日本代表としてワールドカップに出場。

コロナ禍で完全帰国した後に、国際フェンシング連盟公認コーチの資格を取得。

ハンガリー体育大学コーチング学科修士課程卒業。

コーチングを通して、子供たちの可能性を伸ばす言葉がけを常に考え、子供たちが自己実現できるスポーツ界にしたいと活動している。