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リレーインタビュー第61回 櫛橋茉由さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、プロフェンシングコーチ・国際審判員の櫛橋茉由さんです。

 フェンシングサーブル種目の選手として櫛橋さんは、現役時代単身イタリアへ渡り、日本代表選手としても活躍されました。引退後はコーチとなりハンガリー体育大学でコーチングを学ぶ一方、自らの会社(株式会社KUSHIZZI PROJECT)を立ち上げるなど、歩みを止めない櫛橋さんのお話を2回にわたってご紹介します。

(2025年4月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/61-1/

▷ 指導する上で干渉しすぎないこと以外に気をつけていることはありますか?

選手の話を傾聴することですね。できる限り言語化してもらうようにしています。その日一日のこと、例えば食事や生活のことなどをLINEで話してもらったり、日誌を送ってもらうこともあります。また、フェンシングにおいてのルールや理論など、正しいことはしっかりと断言するようにしています。フェンシングの理論に基づいて、動作の名前はきちんと教え込みます。こちらと選手とで食い違ってしまうといざという時に戦術が組み立てられないからです。

▷ 理想とする指導者の方はいらっしゃいますか?

イタリアにいた時のコーチです。二人いるうちの一人は女性のコーチだったのですが、私は女性コーチとして彼女のようになりたいと思っていました。非常に強い方ですが、強さだけでなく指導がとても具体的で、私の弱みを技術ではなくメンタル面からも追求してくれました。イタリア時代、私はメンタルがとても弱かったのですが、コーチたちは根気よく常に励ましてくれました。

▷ メンタルを鍛えるのは難しいことですが、メンタルの指導で意識していることはありますか?

実業団時代からずっとメンタルコーチが私にイロハを教えてくださいました。当時はどのようにして試合時にゾーンに入れる集中状態へ持っていくかをずっと取り組んでいたのですが、今はそれを応用させていただき、コーチングに生かしています。具体的にいうと、自分のベストパフォーマンスを発揮するために、瞑想などで心の中のモヤモヤをクリアにすることです。大人になってからは特に勝利への執着が芽生え、ランキングなどが気になり、頭の中が整理できていない状態で、試合に行っていました。しかしながら、それらを全部コントロールしてから試合に臨むと効果がありました。毎回ゾーンに入るわけではありませんが、ゾーンに入るレベルまでいったのは日本に帰国して一戦目の試合とロシアのワールドカップでした。

▷ 櫛橋さんにとってフェンシングの一番の魅力は何ですか?

私は子どもの頃から剣が好きで、親におもちゃを買ってもらうほどでした。中学校に入ったら剣道部に入ろうと思っていたのですが、私が入った中学校にはフェンシング部があったので、フェンシングを始めました。種目は中学3年生まではフルーレのみをやっていましたが、その後はサーブルとフルーレを両立し、大学に入ってサーブルに転向し、活動を続けました。

▷ どのような選手を育てたいとお考えですか? 

試合で結果が出せることはもちろんですが、人間的にしっかりしている選手、自分の好きなことができる選手であってほしいと思います。自分の中でセカンドキャリアを準備した上で結果が出せる選手であって欲しいです。

フェンシングは国際的な競技なので、世界との繋がりで育まれた視野の広さをセカンドキャリアでも活かしてほしいと思います。指導している選手たちも世界で活躍してほしいので、時々英語でレッスンしたりします。海外で見ることができるもの、実感できることがたくさんあります。

▷ 全国の指導者の皆さんにメッセージをお願いします。

どうしたらより良い形ができるか一緒に考えていきたいです。例えば、選手の思いを基軸にして私たちが少しずつエッセンスを加えながら、選手には自分の意見を持てるようになってほしいです。イタリアでは選手がコーチに対して強く主張しますし質問も投げかけます。選手が納得しないと何も始まりません。子供たちには自主性を伸ばすコーチングをしていきたいと思っています。(了)

(文:河崎美代子)

◎櫛橋茉由さんプロフィール

京都出身。元フェンシングサーブル種目日本代表。

現在はプロフェンシングコーチ、国際審判員として活動中。

13歳からフェンシングを始め、ジュニア時代から日本代表として、海外を転戦。

大学卒業後は、大阪の実業団で仕事と両立しながら競技を続け、2016年イタリアへ。その後、日本代表としてワールドカップに出場。

コロナ禍で完全帰国した後に、国際フェンシング連盟公認コーチの資格を取得。

ハンガリー体育大学コーチング学科修士課程卒業。

コーチングを通して、子供たちの可能性を伸ばす言葉がけを常に考え、子供たちが自己実現できるスポーツ界にしたいと活動している。