「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、3×3バスケットボール選手、株式会社サクラカゴ代表の岡田麻央さんです。
高校卒業後、トヨタ紡織サンシャインラビッツのバスケットボール選手となり、Wリーグで8年間プレーして引退。半年後上京しメディアに出始め、2018年に東京オリンピック種目となった3×3で選手として現役復帰を果たし、2019年にはご自身で株式会社サクラカゴを立ち上げました。
「バスケをツールに社会や子どもたちの未来に貢献したい」という思い、「自分が好きなことをやっていることで周りがハッピーになる」という「幸せの構図」について、岡田さんのお話を3回にわたってご紹介します。
(2024年5月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/54-1/
中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/54-2/
小学校から高校まで、指導してくださった先生はみな好きなのですが、中学校の時のクラブチームの先生には特に影響を受けたと思っています。小学校の時は今の時代では考えられないほど、部活なのにすごく走らされたり、水も飲めなかったりととても厳しかったのですが、根性や体力がつきましたし、愛は感じていたので先生のことは好きでした。中学校の時のクラブチームの先生は選手の教育を第一に考える、やはり愛のある先生で今の私のベースになっています。一人前の選手になる前に一人前の人間になろうという先生で、汚れているところは拭こう、使ったものは片付けよう、トイレのスリッパは揃えよう、ゴミが落ちていたら拾おう、挨拶はしっかり目を見てしようといった、礼儀やマナーのような基本的なことをずっと私たちに教えてくれていました。毎日毎日下さる先生の言葉はみんなの心にゆっくり深く染み付いたと思います。
私たちは「バスケットノート」を毎日先生に提出していたのですが、先生はそれを持ち帰って、毎日返事を書いて返してくれました。先生は小中学校の男女チームも持っていましたから100人ぐらいのノートを見ていたと思います。さらに、みんながノートに書いたことで先生が良いと思ったことを「バスケット通信」というもので共有してくれました。そこには、ノートの内容に対する先生のコメントと共に、時事問題や先生自身の気持ち、教育に関する考え方も書かれていました。それが毎月何枚も来るのです。先生の考え方や思いを共有でき、チームの仲間の思いも共有できるので、チームとしての絆も深まり、とても強いチームになりましたし、同じ出来事でも人によっていろんな考え方があることも学びました。中学校の3年間で、先生に「人間としてどうあるべきか、どう成長すべきか」を教えていただいたと思います。先生のように熱心で情熱のある人はなかなかいないと思いますが、先生の魂のようなものは受け継いで行きたいと思っています。
スクールに通っていた子どもたちの中に、ディフェンスの抜き方がわからないせいでバスケを楽しめず、辞めようか悩んでいた子がいました。でも頭のいい子なので、理論的に説明したら意外と簡単にできることに気づき、「楽しくなって続けられました」と言ってくれたのは嬉しかったです。「向上する楽しさ」を感じてもらえて、そうやってスポーツを続けていくことで、「上手くなって試合に出る」以外の価値にも気づいていってもらえたらと思います。
それから、私の考え方をSNSで発信するうちに、感想を返してくれたり、自分で考えるようになった子が増えているのも嬉しいです。大人の方々も、仕事に不満があったがこう変えてみた、子どもたちのためにこうしてみようと思うといったレスポンスを返してくれます。私がやっていることをきっかけに、周りの方々も未来のための今の自分を考えるきっかけになっているのだとしたら、僭越ながらとても嬉しいことだなと思います。
最近私は政治や地球環境、食のこと、日本人の歴史や民族性、日本人のあり方などに興味があって、自分なりに勉強しているのですが、そのきっかけの一つになったのが「日本財団HEROs」です。発起人は中田英寿さんなのですが、アスリートの社会貢献活動を推進・支援してくれている団体です。そこで災害現場についても学べましたし、この世界には様々な社会課題があること、そして様々な方がそれぞれの方法でアプローチしていることを知りました。HEROsに参加したおかげで、色々な経験ができ、色々な人と出会えて色々なお話ができているのはありがたいです。子どもに関わるにはどうすればいいかといったことも少しずつ影響を受けています。
一番伝えたいのは、自分の人生をしっかり生きてほしいということです。自分が幸せになるために自分の頭で考えてほしい。「自分の幸せとは?」をしっかり考えながら成長すれば、自然と人に対しても優しくなれると思います。まず、自分がどうなりたいか、何がしたいかが一番でいいのです。それは自分勝手に自分の利益だけを考えればいいということではなく、人としての真の幸せを考えた時に、人間は他人を喜ばせることに幸せを感じられる素敵な生き物なので、その結果が人や社会のために行動することになっていくと信じているからです。
それから、本質を見抜き、それを大切にする力をつけてほしいです。自分は何のためにそれをしているのか、自分がどう生きたいのかを常に忘れないでほしいですし、周りの人たちや世間の言っている「当たり前」を疑える勇気も持ってほしいなと思います。
私は恵まれないと言われる境遇にいる子どもたちの気持ちもわかりますし、今の時代の現状も学びながら、エリートと呼ばれるような方々と交流する機会もあります。私はどちらの人たちとも関わりがあり、どちらの考えも理解できるので、会社としてどんな層にも幅広く関わっていきたいです。恵まれている子どもたちも、そうでない子どもたちも、それぞれの環境でできる限りたくさんの経験をして、どんどん力をつけ、自分ができることを増やしていき、それぞれの思いを持ってそれぞれのやり方で、人のためにその力を使えるように成長していってほしいと思います。そのために貢献するということが、この会社の大きな目的です。
バスケで出会った大人も子どもも、みんながその出会いをきっかけに人として成長し、いい人生や素敵な社会を作っていくためにお互い刺激し合える関係性をつくっていけるよう、バスケをツールにオンライン、オフライン共に様々な活動をしていけたらと思っています。
アスリートというのは、ストイックに自分の体を最大限に鍛え、パフォーマンスを上げることをひたすら考える人たちで、努力が目に見えて出ますから尊敬されやすい存在だと思います。「目標のために人一倍努力できる人」という意味で信頼が生まれ、人々への影響力も大きくなるので、その影響力を社会が良くなることへ使っていこうと考えていけば、自ずとその競技はたくさんの人が関わりたくなるスポーツとなり、盛り上がっていくのではないかなと思います。自分たちの価値をどのように上げていくかは、どのように社会や人々の役に立つかということだと思うので、協会もチームも選手個人もそれぞれに、考えていけたらいいのだと思います。
私は少人数保育のスペシャリストである「チャイルドマインダー」の資格を持っているのですが、その根本は「全ての子どもの全てを受け入れるところから始まる」というものです。その軸があると何かに迷った時も何をすればいいかの選択がしやすいので、スポーツ界もそういった本質的な軸をみんなが共有できているといいのではないかなと。もしくは個人でそういった選手としての軸を持ったり、協会やチーム単位でもそれぞれに軸を作って共有できているといいのではないかなと思っています。選手・スタッフ共に、「何のために自分たちは頑張っているのか?」というところに立ち返って、それが人の役に立ち、自分が幸せになれることのためなのだとしたら、きっともっと頑張れるし、どんどん素敵な世界になっていくはずです。器の小さい、自分の保身に走るようなことにはならないのではないかなと思います。
指導者の立場として子どもたちに関わる人たちは、子どもたちや選手たちのより良い未来まで考えて言葉を選べているかどうかに立ち返ってみてほしいなと思います。自分がその言葉をかけ続けた結果、子どもたちはどのように育ち、どういう考え方になるのか。何をするにも愛を持って接してほしいと思います。私は良い指導者の方々に出会いましたが、愛を感じることで厳しい言葉も苦しい練習も悔しい結果も前向きに受け入れられるようになりますし、良くなっていくために自分で考えることができるようになります。愛がある人とない人の差もわかるようになります。子どもたちや選手たちは指導者の承認欲求を満たすためのものでも、そのスポーツで世界一になるために生まれてきたわけでもありません。人として幸せに生きていける人になれるよう、指導者も選手もお互い本気で学び合って、信頼関係を築きながら、成長していける関係性であれたらいいなと私は思っています。(了)
(文:河崎美代子)
◎岡田麻央さんプロフィール
1988年11月16日生まれ 蠍座 辰年 AB型 165.5cm 愛知県小牧市出身
3×3バスケットボール選手 株式会社サクラカゴ代表
◯バスケットボール経歴◯
2005~2007年 名古屋経済大学高蔵高等学校特進科
愛知県2位・インターハイ出場・国体出場
2007~2015年 Wリーグ所属トヨタ紡織サンシャインラビッツ (仕事をしながらバスケに励む)
W1リーグ優勝&ベスト5・国体優勝
皇后杯ベスト8・2013-14season副キャプテン
2018~現在 3×3選手
◯その他経歴
2016年 JFAプロジェクト「夢の教室」夢先生登録
2017年 タレント事務所シンクバンク所属
2018年 NPO法人所属 ①Shape The Dream ②ATHLATE SAVE JAPAN
2019年 株式会社サクラカゴ設立 YouTube開始 全国へバスケクリニック開始
2021年 チャイルドマインダー資格取得 SAKURA CUP(女子バスケ大会)主催 ※毎年開催
2022年 愛知県にU15女子バスケスクール開校
2024年 神奈川県に女子バスケスクール開校
YouTubeチャンネル:TOKYO HOOP GIRLS
Instagram:mao_okada_official