スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー第54回 岡田麻央さん(前編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、3×3バスケットボール選手、株式会社サクラカゴ代表の岡田麻央さんです。

高校卒業後、トヨタ紡織サンシャインラビッツのバスケットボール選手となり、Wリーグで8年間プレーして引退。半年後上京しメディアに出始め、2018年に東京オリンピック種目となった3×3で選手として現役復帰を果たし、2019年にはご自身で株式会社サクラカゴを立ち上げました。

「バスケをツールに社会や子どもたちの未来に貢献したい」という思い、「自分が好きなことをやっていることで周りがハッピーになる」という「幸せの構図」について、岡田さんのお話を3回にわたってご紹介します。

(2024年5月 インタビュアー:松場俊夫)

▷ ご自身で会社を立ち上げた経緯について教えてください。

上京してからは個人で活動しながら、自分が本当にやりたいことが何なのかを模索していました。東京では色々なアスリートと出会う機会が多く、そうした方々がきっかけでASJ(一般社団法人ATHLETE SAVE JAPAN)に入りました。ASJは日本のスポーツ界の「安心・安全な環境作り」をアスリートが発信しようということでAEDの使い方を指導したりしていたのですが、「とても大事なことだな」とただただ共感したのが入った動機です。

私自身、ASJアスリートとして色々な企業や学校に教えに行く中で、さわかみ投信の会長さんと社長さんに出会いました。澤上さんはASJを応援していらしたのですが、「東京で女子バスケットボール(以下バスケ)界を盛り上げたい」という私の思いをお話ししたところ「なるほど、ちょっと考えてみるよ」と。何を考えてくださるのかなと思っていたら、後日社長さんに呼ばれて「あの時の思いは本気でしょ?じゃあ会社作ってやってみればいいじゃない」とおっしゃるのです。会社を作るなんて考えてもいなかったし、ちょっと怖いし、自分としては自由にガヤみたいな感じで盛り上げられればと思っていたのですが、「一度持ち帰って考えてみます」と言いました。

私は日本代表選手だったわけでもなく、そんなに有名でもない選手ですが、だからこそできることがあるのではと思って東京に来ていました。元日本代表だと行動に制限ができてしまうかもしれませんが自分ならできるはず、何でもやってやろうと思っていました。そして東京へ来たことで、バスケの中にも多様な世界があることや、Bリーグやストリートバスケがどのように成り立っているかなどを学び、知り合いも増えました。Wリーグ出身で3X3もやっていて、様々な方たちやメディアともネットワークを持っている人は、その頃私以外にあまりいなかったのです。そこで、勝手に自分で使命感を感じ、会社にした方が社会に溶け込みやすいかなとも感じたので「やります」とお返事しました。会社設立について色々助けていただいたおかげで何とかできたという感じです。

▷  岡田さんの女子バスケへの思いは具体的にはどのようなものだったのですか? 

選手時代は自分のプレーがちゃんとできることが全てだったので、私が現役の頃は今と比べてお客さんがとても少なかったのですが、なぜこんなにお客さんがいないのかといったことを不思議に思いながらも何もしようとはしていませんでしたし、選手でいる間はそこに関われないものだと思っていました。ですから現状を知ったのは上京してからです。

WリーグはBリーグと違ってほとんどが企業チームなので、Bリーグのようにスポンサーさんやお客さんがいなくても成り立ちます。もちろんそれは悪いことではなく、むしろ良いことだとも思うのですが、大小あれど企業チームの多くは世間にアピールするという意識がそもそも弱く、社会に根付くという考えもBリーグチームに比べたら少ないように感じていました。でも私の引退後、Bリーグが盛り上がり、Wリーグももっと盛り上げていこうという雰囲気になってきて、チームがSNSを始めただけでなく、もともとあまり関心のなかった選手自身も意識が変わってSNSを始めたり。今では女子バスケに関わるほとんどの人が自分なりにできることで盛り上げようという意識を持っているのが素晴らしいなと感じています。スポーツの価値やトップリーグの価値を上げるというのは、そこで頑張ってきた人たちがちゃんと影響力を持つことで、その選手を真似する子どもたちが増え、頑張る気持ちやスキル、体づくりや考え方などを学び、素敵な選手、人間に育っていくことが「バスケに触れる価値」につながっていくのだと思っています。

会社を作って一年ぐらい経った頃、私は「なぜ女子バスケットボールを盛り上げたいのか」を考え始めました。なぜ会社を作ってまで盛り上げたいのかを考えた時、私は教育や社会貢献に関心があることに気づきました。私は高卒で選手になり、少し仕事もしていましたが、ほぼずっとバスケだけで、大した社会経験もないまま、社会人としての成長がほぼできないままバスケだけしていたように思います。バスケでメンタルが強くなったりコミュニケーションの取り方が上手くなったりすることはありますが、バスケをする社会人としての意識があの頃は希薄だったなと思います。社会人というのは社会に合わせて回っていかなければいけないのですが、その意識があまりない。ただバスケしたいからやっているというだけで社会に貢献している意識が持てないのです。アスリートは自分が頑張っていること自体が誰かの力になって、社会貢献になっていると言える部分がありますが、もっとできることがあるなと思いました。アスリートはそうでない人に比べたらより多くの人に響く存在だと感じます。トップリーグの選手たちが良い人間性を持っていれば、それに憧れる子どもたちも素敵な人間性を持つ人に育ち、世界平和や社会問題解決にもつながっていくのではと考えました。バスケ界を作る一人一人の人間的成長が、結果的にバスケ界を盛り上げていくことにつながると思うようになったのです。

▷ そういう意識は会社を作る前からあったのですか?

もともと学校の先生になりたいという気持ちがありました。なぜかはわかりませんが。私が育ったのは裕福から突然貧乏になってしまった家庭でしたので、バスケに支えられて生きてきたところがあります。もちろん両親はとても愛情深く育ててくれましたが、辛いことや周りと違うと思うこともやはりあって、それでもバスケがとても楽しかったし、バスケを通していい先生やいい人に出会えたことで楽しい人生を歩めていると思っています。自分のそうした経験から同じような境遇の子どもたち、そして私などよりもっと辛い思いをしている子どもたちのために何かしたいという気持ちはありました。

それに、私がバスケ選手になったことで「麻央ちゃんみたいになりたいです」と言う子どもがいたり、「試合が楽しみです」と言ってくれる大人がいたり、両親が私の出る試合の観戦を生き甲斐のように楽しみにしてくれていることは、「自分が好きなことをやっていることで周りがハッピーになる」という構図で、私は本当に幸せだと感じました。25歳ぐらいの頃、3、4年後の引退が見え始めて「引退後の私の幸せは何だろう」と考えていた時にこの幸せの構図に気づいたのです。それはバスケを辞めてもできる、では次にやりたいことは何なのだろうと考え、29歳30歳まで選手をやっていたら遅いと26歳で引退し、女子バスケの盛り上げや教育に関することに関わろうと東京に来たというわけです。

▷ それは誰にも相談せずに、ご自身で決断したのですか?

ほとんど誰にも相談していません。自分で決めました。周りからは全盛期に辞めたように見えるかもしれませんが、私は高卒から8年間ずっとバスケをやってきて、怪我などもあり辛かったという気持ちもあったと思います。ずっとバスケのことだけやっていると心も体もすり減るのです。あの頃は自分の世界も狭かったので、もっと上手くなりたいという気持ちはありましたが、次のことを考えたことですっぱり辞めることができました。トヨタ紡織にいれば安定しているのに辞めるなんて、と言う人もいましたが、未来が楽しい方がいいですからね。私は自分の感情に正直というか、楽しいことには貪欲というか、辛い経験や劣等感があった分、幸せの本質には敏感です。どうやって人生を楽しむか。それを人生かけて突き詰めている感覚です。(中編に続く)

(文:河崎美代子)

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/54-2/

後編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/54-3/

◎岡田麻央さんプロフィール

1988年11月16日生まれ 蠍座 辰年 AB型 165.5cm 愛知県小牧市出身 

3×3バスケットボール選手 株式会社サクラカゴ代表 

◯バスケットボール経歴◯

2005~2007年 名古屋経済大学高蔵高等学校特進科 

        愛知県2位・インターハイ出場・国体出場

2007~2015年 Wリーグ所属トヨタ紡織サンシャインラビッツ (仕事をしながらバスケに励む)

        W1リーグ優勝&ベスト5・国体優勝

        皇后杯ベスト8・2013-14season副キャプテン

2018~現在 3×3選手

◯その他経歴

2016年 JFAプロジェクト「夢の教室」夢先生登録

2017年 タレント事務所シンクバンク所属                            

2018年 NPO法人所属 ①Shape The Dream ②ATHLATE SAVE JAPAN

2019年 株式会社サクラカゴ設立 YouTube開始 全国へバスケクリニック開始

2021年 チャイルドマインダー資格取得 SAKURA CUP(女子バスケ大会)主催  ※毎年開催

2022年 愛知県にU15女子バスケスクール開校

2024年 神奈川県に女子バスケスクール開校

YouTubeチャンネル:TOKYO HOOP GIRLS

Instagram:mao_okada_official