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リレーインタビュー第51回 赤山僚輔さん(後編)

「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回のインタビューは、理学療法士・スポーツトレーナーの赤山僚輔さんです。

 赤山さんは「全世界から慢性障害をゼロに」という志のもと、バレーボール、バスケットボール、空手などの選手・チームのサポートと、香川県のゲストハウス型リトリート施設「繋安芯堂」の運営を両立されています。心と身体のつながりの深さ・大切さについて、3回にわたってご紹介します。

(2024年1月 インタビュアー:松場俊夫)

前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/51-1/

中編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/51-2/

▷ 身体とともに心の指導もなさる先には、選手にどのような人材になってほしいという思いがあるのですか?

コロナ明けのここ数年、強く思っているのは、自分のことを大切にし、周囲の人に常に感謝を体現できるような人であってほしいということです。例えば、サポートしている空手チームでは、率先して学校のゴミ拾いをしたり、いわゆる「徳を積む」ことをしています。元々は勝つために始めたことなのですが、誰からも応援してもらえる人であったり、「これだけのことをやったのだから結果は全て受け入れる」と言える日々を送る人でありたいという思いがあるのです。誰も見ていないようで必ず見ている人がいますし、競技を終えた後の人生にもこのことは活きてきます。

バレーも空手も、人生においては競技をしていない時間の方が長いので、競技をしている時に育むことが大切です。厳しい勝負の舞台に立つからこそ、育まれる度合いの精度が違います。中途半端に練習して追い込んだ感じになって、なんとなくチームワークも良くなった感じで試合に行って「負けました。でも優勝したい」と言うような人生と、徹底的にやって「もう勝っても負けても何も思い残すことはない」と言える人生とでは全く違います。競技に向き合う本気度を通して、自分に向き合い、人生に向き合う本気度を上げていって欲しいです。最近はすぐに匙を投げる人が多くなっています。人って面白い、社会って面白いと私は思うのですが、その面白さが感じられない人は自分自身に期待できていない部分があります。今サポートしている選手は10代が多いので、社会に出る前にできる限りのことはしたいと思っています。

▷ 赤山さんの会社「JINRIKI」は「人の力」です。この社名にはどのような思いがあるのでしょうか。

2018年の4月に法人の登記をしたのですが、自分の会社に命名するなら、人が一番のエネルギーの源泉であることをまず自分が信じ切ることで、人には可能性があるのだと示したかったのです。自分の可能性をまだ信じきれていない人の力になりたいと思いました。でも、スポーツトレーナーはサポートをする仕事なのですが、私の方が逆にサポートしてもらえているような気がしますし、コーチという面では、教える側の私が教わっているようにも感じています。

▷ 怪我などで挫折感を感じたかつての自分に対して、どのようなアドバイスをしたいと思いますか?

当時は挫折というより、どうしても成果を出したいという本気度がなかったと思います。どこか逃げがあって最大の成果につながらなかったので、その時の自分には「自分に向き合い切れなかったのだからその成果でも仕方ないよ」と厳しく言うと思います。

もちろん、選手にそんなことは言いません。「よく頑張ったね」「合格不合格だけが人生じゃない。そのおかげでここまで来られているんだよ」「いい経験だったね」と言います。失敗か成功かの二択ではなく、成功するまでチャレンジし続けること自体が貴重な経験になるのです。私自身、過去のことで消化不良のものはもう無くなっていますので、失敗という言葉はあまり使わないようにしています。

▷ 赤山さんの「慢性障害をなくす」という志はプラスからゼロへ、一方で選手のパフォーマンスを上げるのはゼロからプラスへ。両者はどのような関係性を持っているのでしょうか。

スポーツトレーナーの活動の中で、目の前の選手やチームから慢性的不調がゼロになるという経験は何度かしていますが、選抜チームでは現代のスポーツ医学において疲労骨折やジャンパー膝などの現象はまだまだ一般的であるという現実を突きつけられています。潜在意識を扱う施術や関わりを学ぶスポーツトレーナー仲間の70人ぐらいのコミュニティがあるのですが、同じことができる人よりも、同じ景色をみることのできる人を増やしたいと思っています。

この世界は選手の移籍などで循環していますので、「ゼロ」に意味があると私は考えています。ただ減らすだけで「この治療法は9割5分成果が出ます」と言っても、100人のうち成果が出ない5人がチームの主力メンバーだったりすることもよくあります。ですので、やはりゼロを目指してこそチームにとって本当の意味でプラスになるのではないかと考えています。

特にナショナルチームの選手は全国から来ますので、各地域の医療水準に関わらずどこでも困らないようにしたいです。では海外ではどうでしょう。日本ではよくてもタイは?韓国は?南米は?となるとイタチごっこになってしまうので、全世界で障害ゼロを目指すことに意味があるのです。自分ができたからと言ってそれでO Kではないのです。プロコーチの三枝さんに声をかけてもらったおかげで、私自身の成果だけでなく、日本チームがアジアや世界で成果を出すことで、日本ではどういうことをしているのかと注目が集まっているので、それを海外でもさまざまな形でお伝えしたいと思っています。

そういった成果の先には、Victoryのカチ(勝ち)ではなくValueのカチ(価値)があると思っています。勝ちに徹底的に向き合うからこそ見える自分の弱さ、あるいはスポーツの奥深さ、徹底的に勝負に向き合わないと見えてこない価値があると思います。資本主義的なマネーゲームであれば、ある程度積んでいけば成し遂げられる部分はありますが、スポーツの勝敗は複合的なもので、積み重ねれば成し遂げられるというわけにはいきません。1億円積めばオリンピックでメダルが取れるわけではありません。だからこそ見えてくる裸の自分に価値があります。スポーツをしているうちにそれをどれだけ育めたのかが重要です。

▷ 日本のスポーツ界について、赤山さんはどのように感じていますか?

一番の課題は、部活という制度の影響でスポーツに対するネガティブイメージを持つ子が多いということです。海外には部活という制度はほとんどなく、スポーツをするのは好きだからで、それが生業になることもあれば、生涯スポーツになることもあります。日本では部活に入らなければいけなかったり、ルールがたくさんあったり、指導者が勝利至上主義的だったりして、活躍できない選手はそのスポーツに対して「面白くない」というイメージを持ってしまいます。日本は思い切って、部活の制度を変えた方がいいのではないでしょうか。学校現場の指導者も苦悩していると聞きます。広義のスポーツというものの魅力を、日本における「体育」という捉え方で狭くしてしまったのであれば、それは非常にもったいないと思います。

日本では「道」というもの、空手道、柔道、剣道、合気道などの「道」全てが、人の鍛錬をする上で身体を扱うことに価値があると先人たちが教えてくれていたはずです。エネルギーのことを学ぶ中で私もその面白さを感じています。日本には、心と身体のつながり、身体の可能性を最大化するということが文化としてすでにありますので、横文字でいうスポーツとうまく融合するといいと思っています。特に、「道」は探究するもので、ルールで勝敗を決めるのは後からついてくるものです。勝敗があってルールがあるからこそ見えてくるものもあるのですが、もっと広い意味で、身体の可能性や心と身体がつながっている面白さに気づけるようになっていけたらと思っています。

▷ 赤山さんの今後のビジョンについて教えてください。

私は今41歳ですが、慢性障害がなくなる未来を想定した時に、まずは自分がスポーツトレーナーとしてサポートしている選手・チームが圧倒的な成果をあげることを目指しています。そこを通過せずして、ビジョンの具現化は成し得ないと感じています。昨年、サポートしている空手チームが悲願のインターハイ団体組手で男女アベック優勝したり、アンダーカテゴリのバレーチームがアジア大会で優勝したりしていますが、その成果にはまだ伸び代があると思っています。スポーツトレーナーとしては、バレーチームが世界一になり、世界一というレンズを通して見た日本や世界に向けて、自分の言葉でメッセージを送ることのできる選手を育むサポートがしたいというビジョンがあります。

現在、ほとんどのプロ選手のインタビューが借り物の言葉で喋っているように私には聞こえます。私は潜在意識を学んでいるので、言葉が喉から出ているのか胸からなのか肚(はら)からなのかがある程度わかります。「口先ばかり」という表現がありますが、肚の奥底からの魂の叫びのようなもの、どんな思いでどんな景色を見てきたかを、たとえインタビューでは言えなくても、自分のチームの選手や監督、保護者に対して話して欲しいです。

また私個人としては、日本の自然、文化や歴史に関して「共生する社会」、スポーツという争いごとの世界にいるからこそ共生できる世界を体現できる自分の背中を3歳の息子に見せられたらと思っています。勝ち負けは大切ですが、それだけでは人生の価値ははかれないということを生き様として見せていきたいのです。私は慢性障害ゼロの未来のゴール設定を2050年と設定しているのですが、その時息子はまだ30歳です。スポーツ医学の教科書から慢性障害の評価や解決方法といった項目がごっそりなくなっていて、歴史のところに「昔は成長痛や慢性腰痛があった」と書いてあるのを、30歳の息子と酒を飲みながら笑い話にする、そんなビジョンがあります。

▷ 全国の指導者の皆さんにメッセージをお願いします。

スポーツをしていて慢性的な痛みや不調で困っているというのはおかしなことで、間違いなくそれがなくなる社会になります。あとはどのタイミングでなくなるかです。私も中学時代オスグッドで苦しみましたが、25年経った今でも同じ疾患で苦しむ選手たちがいます。ですがこれからの25年は違います。業界の成長に私は最大限貢献できるように活動していきますので、決して諦めないでください。解決できる方もどんどん増えています。体の不調を気にすることなく、もっと楽しく、思い切ってスポーツしていただきたいし、そうしていただける未来は間違いなく来ます。そんな未来を一緒に手繰り寄せられるように、共にアクションしていきたいと思っています。(了)

(文:河崎美代子)

◎赤山僚輔さんプロフィール

理学療法士

(財)日本体育協会アスレティックトレーナー

(株)JARTA international 統括部長 SSランクトレーナー

WINメディテーション公認プランナー

睡眠健康指導士

(株)JARTA international 統括部長

日本オリンピック委員会強化スタッフ

香川県バスケットボール協会医科学委員

香川県空手道連盟専任コーチ

■主なサポート

バレーボール女子U16/17,U18/19日本代表

(2018年U17アジア選手権優勝|2019年イタリアW杯優勝|2022年U18アジア選手権優勝|2023年U16アジア選手権優勝|2023年U19世界選手権4位など)

香川県国体成年男子バスケットボール

(2017年国体3位など)

高松商業高校サッカー部

(2017/2018/2021年全国高校サッカー選手権出場、2018/2022年インターハイ出場など)

香川県国体空手道選手団

(2018年国体組手団体2位、2019年国体組手団体優勝、2023年国体組手団体3位)

高松中央高校空手道部

(2019年/2021年/2022年/2023年全国選抜女子組手団体優勝、2023年インターハイ女子組手団体優勝、2018年全国高校選抜男子組手団体優勝、2017年/2019年/2023年インターハイ男子組手団体優勝)

パーソナルサポートにてプロサッカー選手、プロバレーボール選手、競輪選手など

【関連サイト】

人力JINRIKI合同会社

さぬきリトリート繋安芯堂

(株)JARTA international