「コーチ道リレーインタビュー」では、指導者の先達である方々、指導者として現在ご活躍の方々のインタビューをリレー形式でご紹介しています。今回は、パーソナルトレーナーの金森徹さんにお話を伺いました。
高校時代はラグビー部に所属、卒業後は電機メーカーに勤務したもののトレーニングコーチに興味を持ち退職。上京し、アスレティックトレーナー(パーソナルトレーナー)を目指して都内の専門学校で学んだ後、接骨院に勤務してスポーツ選手や介護のサポートで腕を磨き、8年前にフリーランスとして独立しました。現在、体調や健康を管理する専門的トレーナーとして、高校のチームを中心に幅広く活動しています。
コロナ禍を経て「健康作り」に関して考えることが増えたという金森さんのインタビューを2回にわたってご紹介します。
(2023年5月 インタビュアー:松場俊夫)
前編はこちらから↓
https://coach-do.com/interview/46-1/
色々あると思います。私自身は高校時代、ラグビーをやっていましたが、今はサッカーJ1の川崎フロンターレの大ファンです。一緒に仕事をしていた人のつながりで、谷口彰悟選手や車屋紳太郎選手のトレーニング指導もさせてもらいました。初めはサッカーにはあまり興味がなかったのですが、私が住んでいる川崎という街に巻き込まれた感じです。
接骨院に勤務していた頃、ハードな仕事を終えて「疲れた〜」と帰る途中、土曜にはおじさんもおばさんも子供たちもみなフロンターレの青いユニフォームを着て自転車でスタジアムに向かっていくのです。それを見た時、お祭りみたいだな、楽しそうだな、一緒にスタジアムに行ったらいいことありそうだなと思いました。それから応援させてもらうようになったのですが、自分がスポーツをしていなくてもスポーツしている人を見るだけでワクワクするのですよ。マッサージもストレッチもしていないのに体が楽になるのです。どんどん引き込まれていき、フロンターレにどっぷり浸かることになりました。
日本でのラグビーワールドカップの時、外国のごつい人がわざわざ静岡まで来てビール飲みながらニコニコと自国の応援をしているのを見て思いました。健康、健康と言いますが、毎日決められた歩数を歩いたりエクササイズしたり食べたいものも我慢することだけが健康なのでしょうか。これは正解があるのかはわかりませんし、私が間違っているのかもしれませんが、一生懸命やって自分の感情を表現できるようになること、夜更かししても明日から頑張ろうと思えること、そういうこと、そういう状態が健康なのではないかと思うようになりました。
以前、脳梗塞の方のリハビリをお手伝いしたことがあったのですが、高齢者の方々に体を少しでも楽に動かせるようになってもらうために、どんなストレッチをやって、睡眠時間はこうして、タバコはやめてと言ったところで、40数年しか生きていない私たちが90年も生きてきた人にそれが正解だと言えるのでしょうか。ただマニュアル通りにするのではなく、様々な専門的な知識やデータを参考に、「自分は健康だ」と言えるようにサポートやコーディネイトをするのが私たちの役目だと今は考えています。
当時はアスレチックトレーナーというと、インカムをつけてテーピングバッグを腰にぶら下げているラグビーのトレーナーのようなイメージでした。雑誌でもパーソナルトレーナーが取り上げられていましたが、ジムなどで一般の人の身体作りやコンディション作りをする人、都会で富裕層や芸能人などをサポートするような仕事だと思っていました。私が興味を持ったのがアスリートの個別サポートや学生スポーツのサポートでした。東京で勉強して実績を積んだら岐阜に帰り、みんながいつでも健康的になれる場所を作りたいと思いました。
地元に帰り、新しい情報だけでなく本当に必要なこと、大切なことは何なのかを地元のみんなに伝えたいのです。どうすれば貢献できるか今考えているところです。今では学校の部活も減っていますし、スポーツをやらない子も増えています。今後は中学の部活を廃止し、学校や教師が関与しないようになるとのことです。スポーツを地域主導にした結果、教師の方の労働環境は改善されていくのかとは思いますが、コーチング、スポーツ指導、子どもの成長などについて何も学んでいない方がスポーツ現場に出ることは本当に望ましいことなのでしょうか。
ただ、学校の教師でなくても、スポーツをもう少しだけ安全に楽しく激しく適切にできる環境にすることはできるかもしれません。私はそこに関与できないかと思っています。私たちのようなパーソナルトレーナー以外にも色々な運動体験をさせてあげられる経験者がたくさんいます。例えば、競技そのものの技術は関係なくグラウンドで身体を動かす日のようなものを作り、身体を動かしたいだけで来た子に運動を通して余ったエネルギーを発散させてあげることもできます。つまりグラウンドを子供向けのフィットネスクラブのようにするのです。
ただ、地元の方にはピンとこないようでした。どうしても勝ち負けが大事というところに行ってしまうのでしょうか。大切なのは、勝ちたいと思う心を養ってフォローしてあげることだと私は思うのですが、本気で勝ちたいと思うことの大切さと、勝ち負けを問うか問わないかがごっちゃになってしまっているのですかね。
私自身、挫折という言葉にはほぼピンとこないのですが、トレーナーという仕事を形にする、生業にすることには苦労しました。始めた頃は手弁当が普通という時代でしたが、たとえフリーランスでも無償ではやらない、これで食べていこうと決めました。そう思ってはいたものの環境がなかったので、接骨院に勤めて受付でも何でもやりました。本来やりたいことで食べていけなくても生業としてはつながっているはずだと思っていました。
挫折とは違いますが、難しいと思うのは、会社勤めの時、後輩を育成しようとした時には色々と不満が出て、環境を整えれば整えるほど若手が育たないということがありました。組織化することが苦手で、選手に対してできているようなコーチングが他の局面ではなかなかできないのです。あとは明らかな挫折の感覚はありませんが、トレーナーとしてはずっと挫折しているような成功しているような、模索しながら進んでいる感じです。
選手でない時間に気持ちのいい人、会って気持ちのいい人でしょうか。いい筋肉をしていたり足が速かったり、もちろん少なくとも挨拶ができたりということは大事ですが、「彼って気持ちいい人だよね」と言われることは、その人の姿勢が醸し出すものなのかもしれません。真剣に取り組んでいないとその雰囲気は出ないと思います。
少しずれているかもしれませんが、まだ現場指導の2年目くらいの頃、私の言うことを全く聞かなかった選手がいたのですが、高校卒業の際、わざわざ私のところに来てくれて、握手して「これまですみませんでした」と謝られました。その選手は当時少し環境的に不安定で、反抗という形でぶつかる相手が私しかいなかったようです。成長して謝れるようになったのは、私のコーチングが良かったからかどうかはわかりませんが、少なくとも私が手を抜いていなかったからではないかと思っています。
こちらが伝えたいことが選手に全て伝わるわけではないです。少しでも何かが伝わるように学び続けることは最低限のことだと思っています。JATI(日本トレーニング指導者協会)やNSCA(National Strength and Conditioning Association)のセミナーでは色々と学ぶことができました。これだけキャリアのある人が伝えるためにこれだけの模索をしてきたのかと思うと、とにかく私たちも学び続けるしかないなと思います。指導を始めて数年経った頃、JATIの懇親会である先生に「卒業後に会う機会があって、話してもわかってくれていた、理解してくれていたと感じた選手は一人しかいなかった」と話したところ「すごいことだ」と驚かれたこともありました。「一人の人が変わったのはすごいことですよ。その人に関わった人がまた変わっていくかもしれません」と言われました。こういう事を仕事にさせてもらっていることには感謝しかありませんね。そしてこうした助言をくださる人たちに出会えてありがたい限りです。
みんなで一緒に楽しみましょう。選手もコーチ・スタッフもご父兄も一緒に楽しむことが大切だと思います。誰かを犠牲にしたり、何かを犠牲にしたり、そもそも犠牲と考えること自体楽しくありません。
私たちは楽しめる環境を作ることができます。でも楽しみ方は人それぞれで、勝ちたい選手もいれば、勝ちたいと思わない選手もいます。そこにはおそらく理由があるので、それでもその選手が楽しんでいるのだとしたら足を引っ張ってはいけないと思います。さらに「楽しむ」というチームコンセプト自体が嫌だと言う選手がいたら考え直すことも必要です。私たちの役目は楽しくない環境を作らないようにすることだと思います。(了)
(文:河崎美代子)
◎金森徹さんプロフィール
JATI-ATI(日本トレーニング指導者協会認定トレーニング指導者)
NSCA-CPT(National Strength & Conditioning Association認定パーソナルトレーナー)
1976年 岐阜県生まれ
1994年3月 岐阜県立大垣工業高等学校(電子科)卒業
1994年4月〜1999年12月 電機メーカー 勤務
2000年4月〜2002年3月 東都リハビリテーション学院(アスレティックトレーナー科)
2002年4月〜2015年3月 さくらグループ(さくら鍼灸接骨院)勤務
2015年4月〜現在 フリーランスとして活動中
2020年7月〜 Spazioスタート
<現在指導中のチーム>
慶應義塾高校フェンシング部
慶應義塾湘南藤沢中高等部フェンシング部(女子)
法政大学第二高等学校 バスケットボール部・硬式野球部・女子バレーボール部