スポーツ指導者が学びあえる場

リレーインタビュー 第13回 安保澄さん(中編)

◎アンダーエイジカテゴリーの難しさはありますか?

難しさは感じておりません。この年代の特徴は、概ね、協調性は非常にあるのですが、自己主張すること、自分の考えをしっかり述べることがあまりできていない点です。人前で自分の意見を言うことに慣れていないせいもあると思いますが。メダルがかかった試合、そんな土壇場で、接戦で、という時、最終的に必要になるのは選手の主体性だと思うのです。苦しい状況を打破するために、自らが他者をまきこんで、状況を解決できる戦術を提案するとか、選手間で意識を高める行動をとれることが必要になります。そういった強さを求めて、自主性、主体性を伸ばす取り組みを若い世代に対しては行っています。

例えば、今年のU23チームの取り組みでは、2年間かけて選手に身につけてもらいたい資質、養ってもらいたい資質を二つ挙げています。一つ目は「個の自律」。二つ目は「主体的にチームにかかわって貢献すること」。この二つの力を養おうとしています。

その具体的な取り組みとして、今年の強化活動では、選手自らが課題を抽出し、毎日の練習テーマを選手たちが決定するという取り組みを行いました。詳しく言うと、U-23チームが、2018年9月のアジアカップというシニアカテゴリーの大会に向けた合宿において、各スキル(サーブ、サーブレシーブ、オフェンス、ブロック、フロアディフェンス)に担当リーダーを置きました。まず各スキルのリーダーが、それぞれのスキルの現状をしっかり把握してここを高めようと課題を全体に投げかけます。リーダーの提案に対し選手たちはディスカッションして、最終的に各スキルのリーダーを中心に、練習テーマを決め、そのテーマに沿った練習メニューを私が作り、練習を行います。このサイクルを毎日繰り返しました。練習後には振り返りのためにミーティングを行いました。この取り組みによって、コミュニケーションの量はこれまでやったことがないほどの量になりました。

この方法を採用したのは私自身のコーチングに対する反省があったからです。ロンドンオリンピックの時の同僚で、リオでも全日本のコーチをしていた大久保茂和君が2016年後半からJOCの在外研修制度でアメリカにいた時、とても良いヒントをくれたのです。アメリカでは、ボールのトレーニングと同じぐらいミーティングをし、ビデオを観て、フィードバックにも時間をとっている、と。つまり時間配分の見直しです。私は自律した選手を育てると言っていたにも関わらず、自律を養う時間をあまり作っていなかったのです。

指導者なら誰もが選手に自律してほしいと願っていると思いますが、自律の機会を奪っているのは、もしかしたら我々なのかもしれません。もっと選手に意志決定を委ねていいところがあるでしょうし、選手から出てきた思いが練習やチームのプレイングシステムや戦術に反映されれば、選手たちの自律や主体性を促すことに繋がると思うのです。選手たちにとってこれ以上大きい動機づけはありません。

結果としては、コーチ主導でプレイングシステムや戦術を掲げた上で、選手をそこに引き上げる手法よりも、選手たちが課題抽出したことに改善を施してシステムや戦術を形作っていくほうが、戦術の遂行精度を高めるスピードは早かったです。選手の自律や主体性を養うためのアシストはまだまだ必要ですが、近い将来には選手たちで自走できるようになっていくと思います。今年の強化過程で実際に、選手自らの考えで戦術決定をし、やってみたらどうだったかをフィードバックするようにしてみましたが、フィードバックというのは、時にはあまり聞きたくない、特に、うまくいっていない時には遠ざけたいことなのですが、自分たちで決めてやったことですから、素直に受け止めていました。この取り組みは、自己主張をする機会を作っているということ、その結果、自分たちで決めたことに対して責任持った行動を取るということ、つまり自律につながる流れになっていると思います。

自律や主体性を養う時間を設ける必要があるとはいえ、プレイングシステムを高めていくための練習時間も必要でしたし、ミーティングをどうファシリテートしていくかという準備にも多くの時間を割きました。この取り組みが回り始めるまでは、私自身の仕事量も非常に多かったですし、うまく行くかなという心配もありました。しかし、それも自分にとってコーチとしての成長のチャンスだと思いましたし、失敗してもいいという気持もありました。私の根底には「選手たちがメダルをとる場面で活躍することを願うならば、こういう時間と経験の機会を投資することも必要。今ここで高い競技成績を得ることより、成長型のマインドセットを持って自律や主体性を養ってもらう方が、投資する価値としては高いのではないか」という考えがあったので、長期的な視野を持ち、失敗を恐れずに推進しています。

写真提供:www.fivb.orgl

◎育てられた背景によって、マインドセットを変えることができる人とできない人がいると思いますが、どのような工夫をしましたか?

昨年から、(株)リクルートマネジメントソリューションズさんの協力で社会人の人材開発のノウハウを取り入れさせていただいています。チームの選手の中には現状の見方がネガティブな選手もいればポジティブな選手もいて、現状の見方がバラバラだったのですが、その見方のズレを議論してより深く掘り下げるワークを行いました。どうしてこの人はポジティブなのか、どういう点でポジティブなのか、またはその逆なのか。お互いにその視点や思考がわかってくると、みんなですりあわせができ、見方の基準が揃ってきます。

そのワークの前提として、選手たちが本音で話していい土壌、他者が話していることに耳をきちんと傾ける土壌がなければなりません。成長型のマインドセットを持たせる第一段階ではそういった土壌があることが大前提です。ワークを進めていくにつれて、そういった土壌も整ってきました。また、このワークを行うことによって、もし他者と異論があったとしてもそれを発言し、お互いが考えをすり合わせ、建設的な合意形成を進めていくことができれば、チームとして誤った方向には進まないという状況ができました。

今年のU23チームには、昨年同じワークに参加したメンバーが3人、また、当初から主体的取り組みのできる素養を持ったメンバーが6~8人はいたでしょうか。成長型のマインドセットを持って、自律や主体性を養っていく取り組みを受け入れられる選手が比較的多数だったことは、私がこの取り組みを推進する理由として大きかったと思います。そこで今回は思い切って、試合の土壇場での意思決定につながるように、選手たちが意思決定するという機会を日常から作り、選手たちが自らPDCAサイクルを回していくという取り組みを行いました。(後編につづく)

(文:河崎美代子)

【安保澄さん プロフィール】

所属:公益財団法人日本バレーボール協会

役職:U19-U20&U23女子日本代表監督

1970年生まれ。

1993年 明治大学卒業

2000年 筑波大学大学院体育研究科修了。

1998年~2000年 筑波大学女子バレーボール部アシスタントコーチ

2000年~2001年 Vリーグ女子イトーヨーカドープリオールアシスタントコーチ

2001年~2009年 Vリーグ武富士バンブーアシスタントコーチ

2002/2003(第9回)Vリーグ準優勝、

2005/2006(第12回)Vリーグ3位、

2006/2007シーズン Vリーグ4位

2009年~2012年 全日本女子アシスタントコーチ(ディフェンス担当)

2010年 世界選手権銅メダル

2012年 ロンドンオリンピック銅メダル獲得に貢献

2013年~2014年 久光製薬スプリングスアシスタントコーチ

チームの公式戦5冠獲得に貢献

2014年より現職。

2017年U23アジア選手権金メダル

2017年U20世界選手権銅メダル

2018年U19 アジア選手権金メダル

 その他

日本体育協会公認上級コーチ(バレーボール)、

2012年度JOCナショナルコーチアカデミー修了。

JOCナショナルコーチアカデミーワーキングメンバー

☆ 公益財団法人日本バレーボール協会h