リレーインタビュー 第9回 東野智弥さん(中編)

07.15

◎ 東京2020に男子代表が出場して活躍するために何が必要だとお考えですか?

 

まず日常を変えなければならないのですが、これは簡単なことではありません。そのためには意識が必要です。世界を意識せざるをえないオリンピックが日本にやって来ることは、日本のバスケットボール界にとって実にラッキーなことなのです。

日本はリオデジャネイロオリンピックまでの40年、オリンピックに出場できませんでしたが、私が研究したアルゼンチンも1952年から1996年までの44年、オリンピックに出場できませんでした。さらに、国民の平均身長も日本とほとんど同じで、両国の境遇はとてもよく似ています。アルゼンチンは1984年、アトランタオリンピックに出場する12年前にプロリーグを作りました。そこでアルゼンチンが何をしたか。私は日本代表の今後を左右するような方策を地球の真裏の国から学ぶことができたのです。

私たちには3つ足りないことがあります。国際大会での経験。フィジカルの強さ。そしてスキルです。これらを選手達に気づかせるために、日常の練習に集中的に取り入れるようにしました。今ではだいぶ良くなっています。

Bリーグはこれまでで最も多く、1シーズンで1クラブ60試合あるのですが、月に一回、キャンプをしています。リーグ中のキャンプはクラブからは好まれないものですが、東京2020があるのでコーチたちにもオーナーにもGMにも理解してもらっています。トップの5人を強くするよりも、スタンダードをどう上げるかが大事なのです。重要なのは質と量と強度と言われますが、スタッフの質は世界でトップクラス、量の面もリーグで月に60ゲームやってますし、強度についてもだいぶ改革を行いました。そのようにして、国内のゲームのアグレッシブさと激しさのレベルを上げています。忠実にやるべきことをやるという世界レベルの選手やチームが何をしているのかを知らせてきた結果、見て楽しめるゲームが非常に増えました。

実はリオデジャネイロオリンピックで22の試合を観たのですが、男子日本代表の40年のオリンピック不出場には理由があり、レベルや次元が違います。オリンピックにはバスケットボールをやっている213カ国のうちたった12カ国しか出られません。ですから皆、バスケットボールのメダルの価値は十分にわかっています。簡単ではないが、だからこそやるべきなのだと私は思っています。

 

写真提供:日本バスケットボール協会

 

◎ その思いを各チーム、各選手に浸透させるために行っていることはありますか?

 

日々のコミュニケーションを大切にしています。電話でのやりとりが多いので、電車で移動するのが難しいほどです。そして、直接会って話しあう。これの連続です。そして、良いと思ったところははっきり言います。だめなところがあれば、その場ですぐに伝えます。

私はJBL、bjリーグの両リーグでコーチをしてきたので、色々な経験をして来ましたが、車椅子バスケットボールからも多くを学ばせてもらいました。そうした経験が活かされているかどうかはまだわかりませんが、とにかくトライしています。失敗してはいけない場面もありますが、そのためには準備すればいいだけのこと。繰り返していれば失敗の頻度も間違いなく減ってくるものです。コーチたちに言うのですが、失敗を恐れて正確さを求めるよりも、100%の力を出しても失敗することに対し、どうしたらよいのかという方法論を身につけなければなりません。ぜひ見つけてもらいたいと思っています。

ただ、最近は若手が失敗を怖がる傾向があります。失敗を受け入れる度量がないといくら言っても意味はないので、失敗して一度とことん落ち込む経験をさせ、それが糧になるということを身を持って知らせます。ただし、失敗させる勇気が指導者側にあるかどうかが問題です。勝負は勝ちと負けしかありませんが、負けると思って何もしなければ0%です。でも負けると思ってもトライすれば50%の可能性があるのです。”First step is big step”と私はよく言うのですが、その一歩があれば前に進むことができます。

 

 

◎ 日本のバスケットボールが大きな一歩を踏み出すには何が必要だと思いますか?

 

必要なのは失敗を恐れず、成功だけをイメージすることです。男子のオリンピック出場は難しいと言われていますが、私はよくこう言います。「大丈夫です。もしダメなら私が責任とります」と。実際、そのつもりでやっています。失敗続きの遺伝子で育ってきた私たちですが、今は希望しかないです。楽しくなってきましたよ。道が開けてきたような気がします。小さな光さえ見えれば一歩が踏み出せると私は思っています。そこに辿り着けたのは、タイミングもあるし、川淵さんの存在もあるし、何よりこれまで苦労した方々の思いがあるからなのです。私たちはそのことに感謝して、歴史を作るぐらいの思いでやっていかなければいけないと思っています。こうしたことは誰かに言ってるのではなく、実は自分自身に言っていることなのですよ。行動する時には必ず口に出す、それで自分がモチベートされる、その繰り返しです。

 

 

◎ 選手の育成に関して、譲れないこと、大切にしていることは何ですか?

 

人の成長には差があって、早熟、普通、持続、晩成といったパターンがありますから、初めからうまい子とそうでない子がいるということを忘れないようにしなければなりません。私は3万人の子供たちに会っていますが、3、4年後に予想外の成長をするケースを何度も見ています。子供の可能性を信じきることが大事です。

成長の段階に応じて、コーチングのやり方は変わります。例えば、最終身長がとても重要なこともあります。いつ何をどのようにやったかで身長が決まるので、そこを踏まえて、何をベースにするか、いつどういうところでポジションを与えるかといったことを考えなければなりません。どうしても今を見てしまいがちなので、将来の可能性を信じるのはなかなか難しいことです。

現在の「負けたら終わり」的な育成方法は良くないと思います。試合数が少ないと決してうまくなりませんから、リーグ戦の導入などの構造改革を行っているところです。また、私はクラッシャーバスケットキャンプをやってきましたが、365日のうちたった1日だけでも刺激があると選手は目に見えて変わるのです。私は自分の先生以外に習ったことがなかったのですが、これが日本の育成の不十分なところです。もう一つ、他のスポーツをやっていないことも問題です。ウォームアップで野球やドッジボール、ボルダリングなどもやらせてみたいと思っていますが、大半が学校の部活動なのでなかなか難しいのが現状です。ですが、伝えたいことがたくさんありますし、子供達をより良く変化させることが日本を作ることにつながると私は考えています。育成こそが私のライフワークだと思っています。

 

 

◎ トップの選手の育成についてはどのようにお考えですか?

 

私はコーチを20年ぐらいやってきましたが、主体はプロチーム、つまりトップ選手のコーチです。実は、日本のバスケットボールにおいては熟練した選手になるまでの時間がとても長くて、24歳ぐらいで一人前と言うような雰囲気があります。コートに入ったら、若手もベテランもないのですが、そういった点にまだこだわりがあります。観客がたくさん呼べて実力があれば年齢やキャリアは関係ありません。

個々の選手に関しては、競技力と人間性は連動すると思っています。ですから、オフザコート、例えば彼女だったり、生い立ち、兄弟や両親、家族のことだったり、それぞれの私生活や歴史に自分自身も関わるということはずっとやってきています。どういうところに強さと弱さがあり、どんな特徴があり、どんな思いがあるのかを知るようにします。個々が重なってチームになるので、一人一人へのフォーカスは大事にしています。」(後編に続く)

(文:河崎美代子)

 

 

【東野智弥さん プロフィール】

生年月日/1970 年9月9日(45 歳)

出 身 地/石川県

出 身 校/早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科

(トップスポーツマネジメント コース/コーチング コース)

コーチ資格/JBA 公認A級コーチ JOC ナショナル・コーチ・アカデミー修了

【競技歴】 期間 所属 主な戦績等

1986- 北陸高校(1988年インターハイ優勝、1987年・1988年高校選抜優勝大会 3大会連続 2位

1989- 早稲田大学(関東学生リーグ1部/2部 全日本大学選手権大会出場)

1993-1995 アンフィニ東京 (現:埼玉ブロンコス) 全日本実業団選手権大会2位

【指導歴】 期間 所属 役職 主な戦績等

1996-1998 ルイス&クラーク大学アシスタントコーチ(NAIAトーナメントベスト8)

1998-1999 三井生命ファルコンズ アシスタントコーチ

1999-2001 エネミクロス・メディカルセンター スポーツコーディネーター

1999-2001 所沢ブロンコス(日本リーグ2部) ヘッドコーチ

1999-2001 早稲田大学 男子部 コーチ

1999-2008 車椅子バスケットボール男子日本代表アシスタントコーチ アドバイザーコーチ

2001-2004 トヨタ自動車アルバルク(スーパーリーグ)アシスタントコーチ(2001-02シーズン優勝)

2004-2006 男子日本代表 アシスタントコーチ(2006年@埼玉 FIBA 世界選手権20位)

2004    第4回 FIBAアジアヤングメン選手権 男子U-20日本代表アシスタントコーチ(13 位)

2007-2010 レラカムイ北海道(JBL) ヘッドコーチ

2010-2012 男子日本代表 コーチ

2012    ミルウォーキー・バックス (NBA サマーリーグ)アシスタントコーチ

2013-2016 車椅子バスケットボール男子日本代表 戦略コーチ

2013-2016 浜松・東三河フェニックス(bjリーグ) ヘッドコーチ(2014-15 シーズン優勝)

⭐︎ 日本バスケットボール協会 公式サイト

http://www.japanbasketball.jp//

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