リレーインタビュー 第10回 倉嶋洋介さん(中編)

09.15

◎ 中国との差を埋めるための戦略はどのようなものなのでしょうか?

 

中国は卓球人口が非常に多く、週2回以上卓球をやっている人が8000万から9000万人もいると言われています。数では勝てませんから、質を高くしなければなりません。それにはまず強化合宿の質を高めること、そしてナショナルレベルの指導者を作っていくことが目下の課題です。現在、常駐では私とジュニアナショナルチームの田勢監督の二人しかいません。本当なら中国のように選手2、3人に対し担当コーチ1人がつきっきりという体制が理想なのですが、日本にはまだそこまでの数の指導者がいません。私は「選手・環境・指導者」の3本の柱が必要だといつも思っています。環境はナショナルトレーニングセンターができ、整ってきました。選手も強化システムの充実から育つようになってきていますが、指導者についてはまだまだです。その3本柱がしっかりしていれば、日本も中国にもっと迫っていけると思いますが、この3本のうち1本でも欠けてしまうと、日本が世界でメダルをいつも獲得できるチームでなくなってしまう時がいつか来てしまうと思います。選手の能力ももちろん大切ですが、その選手たちを育てる環境、指導者など組織的に成長をしていかなければなりません。中国に勝つにはそういった部分の質を高めることが大切です。

 

 

◎ 指導者を育てるためにやっていることはありますか?

 

まだないのですが、ナショナルスタッフが地方に出かけて講習会をやることはあります。例えば、私たちが世界で学んだことなどを、インターハイや中学校、小学校の全国大会の監督会議でプレゼンテーションさせてもらっています。現在の世界の状況がどうなっているか、日本が勝つためには何が必要か、小学生にはこういう指導をもっと取り入れてもらいたい、といった話をトップダウンで情報提供しています。あとは地方ブロックの研修会がありますが、卓球独自の指導者育成システムはまだありません。Jリーグのライセンス制の指導システムのようなものをたとえ小規模でもやるべきだと思っています。でもまだ進められていないので、やる気のある人は(JOCナショナル)コーチアカデミーに入ってもらうなどしていますが、できれば卓球のコーチアカデミーのようなものが今後卓球の指導者育成の柱になることを望んでいます。それが1つの課題です。

今、巷で卓球場を開く人が増えてきましたが、それが卓球界の底辺としていい形になってきています。ママさんたちや子供たちを教えている人たちが意識を高く持ち、プロコーチとしてナショナルチームに興味を持ってくれるといいのですが、みなさん仕事を持ちながらコーチをやっている人ばかりなので、なかなか難しい。仕事を辞めて指導者を目指せるようなシステムが欲しいです。来年からはTプレミアリーグができて、プロ指導者やプロコーチ、選手の受け皿がますます必要になってきますから、このタイミングで、たとえ小さくても指導者を育成するシステムが必要です。それが中国に対抗する長いスパンでの方法の一つになると思います。

 

 

◎ 倉嶋さんにとって理想の指導者とは?

 

自分にいつも言い聞かせているのは、選手に100%を言ってはいけないということです。必ず、選手自身の考える力を養わなければいけません。ナショナルチームの選手には、言わなければならない時にははっきり言いますが、基本的に、どう思う?どちらがいいと思う?と尋ねて、選択させるようにしています。今のように情報化が進んだ時代、何でもネットで調べればわかります。子供たちには自分で何かを作りあげたり、考えて行動するという部分が非常に欠如している気がします。ですから、若い選手に対しては、なるべく自立させるように指導をしています。卓球に例えると0.0何秒のラリーの中で判断し決断して打つという作業をしなければなりません。回転やコースなどとても複雑なので、頭が良くなければ、トップレベルでは戦えません。選手たちが練習の内容を理解できるように指導しているつもりですが、私が卓球はああでこうでと言ってしまってはオーバーコーチングになってしまうと思うのです。最後の舞台では自分で考えられる人が強いし、それができずに勝てないケースをいくつも見てきています。考える力を持たせること、自立した選手を育てることをいつも念頭に置きつつ選手達と向き合っているつもりです。

張本(智和選手)に関して言うと、小学校の時の練習量は2、3時間、普通の子とあまり変わりません。そのかわり塾で勉強してから練習場に来ます。勉強と卓球の両立がご両親の方針なのです。遠征に行っても塾のテキストなどで常に勉強しています。彼はその「学ぶ姿勢」が習慣づいているのです。張本は理解力が非常に高くて、コーチに言われたことを頭の中で咀嚼し自分で判断して「こういうことですよね」と言って来ます。だからこそ今の強い彼がいるのです。試合では攻め方のバリエーションが多いので、自分で考えることができる選手を育てていかないとなりません。そのためにもコミュニケーションは重要です。

 

 

◎ 選手によってコミュニケーションの方法を変えることはありますか?

 

水谷などトップにいる選手とこれからの選手とでは入り込み方が異なります。私との関係が長い選手にはあれこれ言いすぎると混乱してしまうので、シンプルに言います。そこまでの理解がない選手には毎日、「また言ってるよ」と言われるぐらい何度も言います。監督になって5年目になりますが、選手との間はうまくいっていると思っています。全てはコミュニケーションから選手それぞれどのような間合いで、話し方や伝え方、大切な話ではシチュエーションなどを考えて話すようにしています。選手の状況に応じて、個人面談のようなこともしています。選手の心に言葉が染み込んでいかなければ伝えたことにはならないと思いますし、その中で選手達の理解力を高めていきたいと思っています。

 

 

◎ 倉嶋さんが理想とする監督さんはいらっしゃいますか?

 

特に誰というのはありませんが、コーチアカデミーで講習を受けていた時、まわりの皆それぞれが個性的で頭が良いという印象を持ちました。各人の特技がわかるようなアカデミーで、プレゼンを工夫していたり、話し方やコミュニケーションの取り方がうまかったり、優秀な方ばかりでとても勉強になりました。自分にも彼らのような力がもっと必要だと思いました。卓球界は狭い世界ですので、色々な人と共に学んだあの2か月は自分にとって非常に良かったです。コーチアカデミーが私を変えてくれたと思っています。監督をしているとまわりが何も言ってくれません。監督はある意味孤独です。自分を戒め、締め付けてくれる貴重な経験でした。(中編につづく)

(文:河崎美代子)

 

 

【倉嶋洋介プロフィール】

 

1976年生 42歳 東京都出身

1989年 埼玉県岡部町立岡部中学校

1992年 埼玉工業大学深谷高等学校

1995年 明治大学

1999年 協和発酵(株)

2007年 明治大学コーチ

2010年 男子ナショナルチーム、ジュニアナショナルチームコーチ

2012年 男子ナショナルチーム監督

 

【競技歴】

1990年 全国中学校卓球大会 団体優勝

1991年 全国中学校卓球大会 団体準優勝

1992年 全日本ジュニア シングルス3位

1993年 全日本ジュニア シングルス3位 インターハイ 団体優勝

1995年〜1998年 インカレ 団体4連覇

1996年〜1998年 関東学生春季リーグ戦 団体6連覇

1997年 全日本学生選手権大会 シングルス3位

1998年 全日本学生選手権大会 シングルス3位

2001年 全日本選手権大会 混合ダブルス優勝 シングルス3位

2001年 第46回世界卓球選手権大会 出場

2002年 全日本選手権大会 男子ダブルス優勝 シングルス3位

2004年 全日本選手権大会 男子ダブルス優勝 シングルス3位

2005年 全日本選手権大会 男子ダブルス優勝

2006年 全日本社会人選手権 シングルス準優勝

 

【指導歴】

◎明治大学コーチ

2007年〜2010年 全日本選手権大会 シングルス優勝(水谷隼)

2009年 インカレ 団体優勝

 

◎男子ナショナルチームコーチ

2010年 世界卓球選手権モスクワ大会 団体銅メダル

2011年 世界卓球選手権大会ロッテルダム大会 混合ダブルス銅メダル

2012年 世界卓球選手権大会ドルトムント大会 団体銅メダル

2012年 世界ジュニア卓球選手権大会 シングルス優勝(丹羽孝希)

 

◎男子ナショナルチーム監督

2013年 世界卓球選手権パリ大会 ダブルス銅メダル

2014年 世界卓球選手権東京大会 団体銅メダル

2015年 世界卓球選手権蘇州大会 ダブルス銅メダル 混合ダブルス銀メダル

2016年 世界卓球選手権クアラルンプール大会 団体銀メダル

2016年 リオデジャネイロオリンピック 団体銀メダル シングルス銅メダル(水谷隼)

2017年 世界卓球選手権デュッセルドルフ大会 ダブルス銀メダル/銅メダル 混合ダブルス 金メダル

 

【公益財団法人 日本卓球協会 公式サイト】

 

⭐︎公益財団法人 日本卓球協会 公式サイト

http://www.jtta.or.jp/

 

 

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